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金刀比羅宮 書院の美/歌川広重《名所江戸百景》のすべて [Art]

金刀比羅宮 書院の美/歌川広重《名所江戸百景》のすべて
東京芸術大学美術館
2007年8月5日(日)

あちこちでかなり目立つ宣伝をしていたこともあり、早めに行きたいと思っていた。この日は特に予定はなかったので、暑い中を思い切って上野まで出かけることにした。

東京芸大の付属美術館は、東京国立博物館から歩いてすぐのところにあるが、足を踏み入れるのは初めて。

今回の展覧会の見所は、何と言っても「こんぴらさん」として知られる金刀比羅宮の障壁画を約130面も持ち込んで、表書院・奥書院10室の絵画空間を再現していること。両書院とも通常は非公開とのことで、極めて貴重な機会ということになる。なお、音声ガイドは片岡愛之助が担当しているが、歌舞伎役者がこうした役割を勤めるのは珍しい。標準語による解説には微かな居心地の悪さも感じないわけではなかったが、聴いている内に段々と馴染んできた。

エレベーターで3階に上がり表書院から入ると、応挙の襖絵に囲まれた三室が並ぶ。まず「鶴の間」で「稚松丹頂図」「芦丹頂図」がプロローグらしい格調と落ち着きを感じさせるが、続く「虎の間」ではポスター等にもなっている「遊虎図」に取り囲まれ圧倒されることになる。応挙はその格調の高さから時としてインパクトが薄く感じられることもあるのだが、この虎たちには文句なしにドキドキさせられる。その後「七賢の間」を経て、奥書院に進む。

最初は岸岱による「柳の間」「菖蒲の間」「春の間」になるが、応挙・若冲ほどポピュラーではないのに彼らに負けないレベルの高さを感じさせてくれたのは嬉しい驚き。傷んでいた若冲の襖絵を同じ主題で置き換えるという、言わば若冲へのオマージュとして制作されているが、「水辺柳樹白鷺図」「水辺花鳥図」などには岸岱独特の伸びやかさが感じられる。

続いて若冲の手になる「花丸図」に囲まれた「上段の間」になるが、狭い部屋の襖や床の間に細密に描かれた花達がぎっしりと並ぶ姿は、花の香りの濃密さに咽せてしまうような気分になる。

ここで再度表書院に戻ると、また応挙の絵による「山水の間」で描かれる遠景に少しリラックスし、最後は明治初期の画家・頓田丹陵が描いた「富士山図」「富士巻狩図」に囲まれた「富士一の間」「富士二の間」でゆったりと締め括るというように、展示の順番が良く考えられているのが印象的だった。3階から地下2階までエレベーターで降りると、海の神として幅広く信仰されたことを示す船の模型や絵馬などが展示されており、琴平への旅を疑似体験したような気分にさせてもらうことができた。

元々はここまでが今日のお目当てだったのだが、地下2階の反対側では「歌川広重《名所江戸百景》のすべて」を展示していて、これも見逃せない気になって結局見てみることに。入場すると少々混雑もしておりまた閉館時間も迫っていたので、今一つゆったりと見て回ることはできなかったが、刷りの状態も発色も良いものが殆どで、なかなか贅沢な展示。風景写真的な構図の切り取り方の面白さや、幾つかの絵で描かれた動植物の大胆なクローズアップなど、興味深い絵も少なくなかった。

なお、両展示とも結局図録を購入してしまったのだが、特に「金刀比羅宮」の方は、障壁画の拡大表示だけでなく、現地の室内や建物の外観、室内から外部の展望といった写真が秀逸で、お値打ち感が高いと思った。


青山二郎の眼 [Art]


「青山二郎の眼」展
世田谷美術館

銕仙会にお誘いいただいたAさんから招待券を頂戴して、今回も他のメンバーともどもご一緒させていただくこととなった。用賀駅からバスに乗ったらそのAさんが既に乗っておられて、そのまま美術館へ。既に17時頃になっていたが、ぼちぼちと見て回ることに。

正直なところ、青山二郎という名前はどこかで見かけたことがあるものの、チラシの「白洲正子の物語も小林秀雄の骨董もこの男から始まった」という惹句にようやく引っかかった程度で、ほぼ事前知識無しでやって来たが、興味深い展示品の数々に触れることができたのは嬉しかった。

希代の目利きで「骨董」の完成者とされ、二十代で柳宗悦とともに民藝運動を支え、その後も白洲、小林の他にも永井龍雄、中原中也、河上徹太郎らが文学論・骨董談義に花を咲かすサロンの中心人物だったという。その類い希なる「審美眼」自体の高みは、文字通り雲の上の如く及ぶべくもないところにあると思うのだが、麓でうろうろとしている我が身からでも、その一端を垣間見ることはできたように思う。

展示は以下の4部に区切られていた。
 第1章 鑑賞陶器 ー中国古陶磁
 第2章 朝鮮考 ー李朝、朝鮮工芸
 第3章 日本の骨董
 第4章 装幀家・青山二郎とその交流

どの部門にもそれぞれ印象深い展示品はあったが、中でも「第3章」での幾つかの織部や「紅志野香炉」などには足が止まり、更に本阿弥光悦の「鹿図蒔絵硯箱」と「山月蒔絵文庫」のモダンなデザイン性は素晴らしかった。蕎麦猪口のコレクションも、羨ましい限りの品々だった。

また、小林秀雄らとの交流におけるやりとりを示す文章が掲示されていたのもなかなかに興味深く、小林に対して「個々の物が見えて来れば、後は割合に頭でいけるから彼の(お手のもの)に近くなる。」などと言い切っているのを見ると、何やら痛快さすら感じてしまった。

全体は一時間弱で見終わってしまって、恐らくは展示品達の価値のごく一部に触れただけではあったのだろうが、自分なりに来ただけの値打ちはあったように思う。帰りがけに見かけた図録は、流石に装幀家としても数々の足跡を残した青山ゆかりの展覧会に相応しく、前述の「山月蒔絵文庫」をモチーフにした箱入りで冊子も含め立派な装幀(新潮社装幀室の手によるものとのこと)。これを購入した満足感も持って、閉館時刻の18時過ぎに美術館を後にした。

その後、Aさんともう1名のツアーメンバーも合流して計3名で三軒茶屋まで戻る。お目当ての「赤鬼」は満員だったので、随分と久しぶりに焼酎メインのダイニングバー「」へ。美術よりも歌舞伎、能、映画などを中心に、昔の話から最近の状況までとりとめなく話をさせていただくことができたのは楽しかったが、結果的に結構長居をしてしまい、最も遠くまで帰るAさんには少し申し訳なかった。


肉筆浮世絵のすべて [Art]

肉筆浮世絵の全てーその誕生から歌麿・北斎・広重まで
出光美術館

今月はかなり忙しいのに芝居も美術館も観に行くべきものが多く、結果的に見逃してしまったものもあったが、この展覧会は友人から招待券を貰っていたし、そうでなくても何とか足を運びたいと思っていたもの。結局会期末が迫ってきたので、金曜日の会社帰りに行くことにした。

展覧会のタイトルにあるとおり、肉筆浮世絵を江戸初期から幕末まで約70点を展示したもので、その大半が公的な施設ではない当館の収蔵品ばかりというのは驚異的なことだと思った。

前後期で大きく展示替えがなされているが、やはり印象的なのは全期間展示の作品に多く見られた。表題どおり美人ばかりを並べて描いた勝川春章「美人鑑賞図」の豊穣さ、重文でもある喜多川歌麿「更衣美人図」の得も言われぬ微笑みの中にあるたっぷりとした色気、これまであまり見る機会の無かった鳥文斎栄之の一連の作品のすっきりとした風情、そして浮世絵という枠に止まらない圧倒的な画力を感じさせる葛飾北斎の作品群など、いずれも今回目にすることができたのが幸せだと感じるものが多かった。

この展覧会が7月1日に終了すると、開館40周年記念事業として館内のリニューアルを行うため、8月一杯は閉館とのこと。新装後の9月には江戸期の僧侶・仙厓の作品を集めた「仙厓・センガイ・SENGAI」が開催されるとのことだが、展示の最後の出口のところにはその仙厓が絵筆をとった「高取竹笹文水指」が予告編のように展示されていて、それも微笑ましく眺めながら充実した気分で会場を後にした。


アートで候 [Art]


「アートで候」会田誠 山口晃 展
上野の森美術館

友人から招待券を貰っていたこの展覧会。歌舞伎鑑賞教室の終演後に有楽町線とJRを乗り継いで上野へ。

森美術館で先月観た「笑い展−現代アートにみる『おかしみ』の事情」でビン・ラディンに扮したビデオ作品が紹介されていた会田誠、また大和絵の技法を現代に活かして都市の風景を一見レトロに実は超現代的に描く山口晃という二人の展覧会で、日曜日の夕刻ながら会期も終了間際ということもあってか、予想以上の盛況という印象。

展示されているのは、オタクキャラクター的美少女で埋め尽くされたシュールな作品や、だまし絵的な都市の風景など、今に生きる人間を突き放さず迎合せずといった風情の作品が多く、見る者をニヤリとさせたり肩すかしを食わせたり、全体として飽きさせない展覧会となっていたように思う。とは言え、やはり招待券を貰わなければ足を運ばなかった可能性は高いと思うと、友人に素直に感謝したい気持ちになった。

急ぎ足で見終わってから、閉館時刻も迫っている中で図録を買おうかどうか迷ったのだが、売り切れで後日郵送の受付をしていると聞き、それならばと申し込んでしまったのは少々乗せられた感じがしないでもない。ただ、多少駆け足だったことや二人のこれまでの軌跡についてあまり詳しく知らないことも考えると、図録が届いてから改めて見返してみるのをやはり楽しみにしたい。


レオナルド・ダ・ヴィンチー天才の実像 [Art]


レオナルド・ダ・ヴィンチー天才の実像
東京国立博物館

いよいよ会期末が今週末に迫ってきたので、土日よりはまだましだと思って金曜日に行こうと思い立ち、18時過ぎに会社を出て上野へ向かう。

到着すると、第1会場(本館)の「受胎告知」が20分待ち、第2会場は待ち時間無しということで、とりあえず第1会場の列につく。15分ほどで本館内に入り、手荷物検査を避けてコインロッカーにかばんを預け金属探知機をくぐって展示室内へ。中も幾重にも人が重なっている状況で、結局最前列を少しずつ歩きながら現物を眺めたが、ゆっくり見るというには程遠い状況で、正直に言えばここで強いインパクトを受けたとは言い難い。

イヤホンガイドの受付時間が19時15分までという案内にもせかされながら、そそくさと本館を出て平成館へ向かう。こちらは最初のコーナーから「受胎告知」のデジタル複製画による解説があり、それ以降も貴重とされる手稿類も殆どが複製品で、それらに基づくディスプレイ(日立製なので恐らく液晶ではなくプラズマ)上の動画が数多く展示されるなど、オリジナルの現物を見る迫力という意味では物足りなさを感じてしまう。

ところが展示を見続けるにつれ、人力飛行機、教会堂、動く獅子の人形(日本風に言えばからくり仕掛け)、人間の肉体各パーツの細部等々まで、手稿類等に基づいた模型類や再現図が数多く並べられることで、単に複製類だからインパクトが弱いということではなく、むしろレオナルドの意図をどうやって伝えようかという意気込みのようなものが伝わってくる。

そうした展示群を通して感じたのは、レオナルドが芸術家であるとか、天才であるとかということよりも、彼は今で言う「エンジニア」の神様のような存在であるということ。彼にとっては、肉体であれ機械であれその機能と構造を徹底的に分析し尽くすことが第一義であり、絵画も彫刻も結果としてそうした機能や構造に対する理解をを自らイメージする形象に具体化したものに過ぎないのではないか。その意味では、感性の人というよりもむしろ徹底して理詰めの人であったのではないかという気持ちを強くしながら、延長された閉館時刻の20時30分ギリギリまで粘って、会場を後にした。


国立新美術館&森美術館 [Art]

昨日に引き続き、"六本木アート・トライアングル"へ。小雨模様の中、まずは国立新美術館。東京メトロ乃木坂駅6番出口から向かうと、チケット売り場で少し行列が出来ていて身構えたが、5分ほど並んで窓口へ。"大回顧展モネ"は10分待ち、"異邦人たちのパリ 1990-2005"は待ち時間無しとのことで、両方観ると計200円割引とのこと。ただ、当方はこの美術館自体を見に来たことでもあり、また最初の開館記念展である後者の開催期間は5月7日までということなので、迷わず後者のみの入場券を購入。

この展覧会は、フランス・ポンピドーセンターの所蔵品展で、20世紀から初頭から現代までの作品約200点を展示するもの。セクションは<1.モンマルトルからモンパルナスへ><2.外から来た抽象><3.パリにおける具象革命><4.マルチカルチャーの都・パリ>の4部構成で各々テーマ性は感じられるが、年代的にはかなりのラップが見られる。それにしても、フランス人以外の画家・彫刻家だけでこれだけ充実した展示になるということ自体、パリの求心力を強烈に示しているように思う。

印象に残ったのは、ピカソの具象画「座せる裸婦」、キスリング「若いポーランド女性」、カンディンスキー「相互和音」など。また、マン・レイ、ブラッサイといった写真芸術の台頭と抽象絵画の深化が同時進行していることも感じられる展示になっていたと思う。第4部のコンテンポラリーアートは先鋭的なものも多いだけに距離感も感じたが、これらも時代を経て徐々に淘汰されていくのかもしれない。

見終わってから六本木側の正面入口を出ると、別館の南側に旧・第三連隊の建物の壁面が保存されている。この歴史から思い起こすのは、小学生の頃に草野球ができる場所を求めてうろうろする中で、このあたり(実際は今も残されている都立青山公園の敷地だったと思うが)を「サンレンタイ」と呼び習わしていたこと。今も残る米軍ヘリポートから軍用ヘリが離陸していった姿をおぼろげに記憶している。

引き続き小雨の中を六本木ヒルズまで歩いてから、森美術館へ。チケット購入後53階まで上がり、まずは「日本美術が笑う」展へ。「笑い」をキーにした古代から現代までの日本美術を概観した展示になっている。笑顔の縄文埴輪に始まり、岸田劉生「麗子像」と山雪などの「寒山拾得図」との関連展示へと続く。曾我蕭白、伊藤若冲、森狙仙、南天棒などの貴重で愛らしくも興味をそそる作品が並ぶが、河鍋暁斎「放屁合戦絵巻」のバカバカしさには理屈抜きに吹き出してしまう。展示の締め括りに置かれた円空、木喰などによる笑顔をたたえた木彫の仏像群には、その大らかさが新鮮に感じられた。また、最近読んだ辻惟雄「奇想の図譜」で紹介されていた白隠禅師の作品を実物で見ることができたのも嬉しかった。

次いで、同時開催の「笑い展−現代アートにみる『おかしみ』の事情」へと進む。第一次世界大戦以降の現代アートにおける「おかしみ」を通して作品のメッセージを読み取ろうとする目的での展覧会とのこと。冒頭に展示されるフルクサスの作品群など、にやりとさせられる知的な笑いを含む展示も多い。ただ、素直に大笑いする作品が見られない気もするのは、こちらも展覧会のはしごで多少疲れていたためかもしれない。
後半にかけてビデオ映像による作品が増えるが、ここまで来ると「モンティ・パイソン」をはじめとするナンセンスさを基調とした映像表現や、日本のお笑い芸人のビデオクリップとの間で何処で線引きをするのか悩ましい気もする。タミ・ベン=トール「アドルフ・ヒトラーについて語る人達」を見ていたら、松尾貴史(当時はキッチュという芸名だったか)が「朝まで生テレビ」出演者たちのパロディを一人で演じていたことを思い起こしてしまったりした。


日本を祝う [Art]

[ サントリー美術館 開館記念展Ⅰ ] 日本を祝う

"六本木アート・トライアングル"と言われる三つの美術館だが、まだどこも行ったことがなかったので、この連休中に足を運んでみようと思い立った。どこも混んでいそうだが、世間が平日で自分が休みである5月1日なら多少はましなのではないかと思ったが、赤坂からに移転してきたサントリー美術館は1日が休館日ということだったので、ここだけは先に行ってみることにした。

問題は、ここはオープンしたばかりの"東京ミッドタウン"に入っているということ。出発までもたもたしていて、結局ランチタイムも終わった3時頃に到着。それにしても、旧防衛庁の一角がこれだけ再開発されてしまうと、街の風景が一変してしまっている。中に入ったところ予想以上の人混みで、美術館の入り口にたどり着くまでが一苦労。3階に上がってエントランスを見つけてようやく入館すると、日本美術がメインの展覧会にしては人が多いものの、ショッピングゾーンなどよりはるかに落ち着いた雰囲気でホッとする。

イヤホンガイドを借りて4階から回り始める。床材は樽材の再利用であるホワイト・オークとのこと。展示品は、サントリー美術館の収蔵品を中心としたもの。国宝の<浮線綾螺鈿蒔絵手箱>は展示替えの後半で登場するようで見ることはできず、稀少な品では重文クラスが数点だったが、なかなか楽しめるものだった。

展示は<1.祥(しるし) Symbol 祝いのシンボル><2.花(はな) Season 敷きと自然のパラダイス><3.祭(まつり) Festival ハレの日のセレモニー><4.宴(うたげ) Celebration 暮らしのエンターテインメント><5.調(しらべ) Harmony 色と文様のハーモニー>の5つのテーマで展開されるが、それほどかっちりした流れがあるという感じは受けなかった。

印象に残ったのは、鍋島や織部などでも特にデザイン性が強くモダンなイメージの品々や、思いの外華やかな能装束など。他には、尾形乾山の「白泥染付金彩芒文蓋物」、蝙蝠をモチーフにした「薩摩切子藍色船形鉢」、サントリーが自社のCMなどでも活用していた「舞踊図」も目についたし、初期の歌舞伎女形を描いた「寛文美人図」なども興味深かった。

美術館を出ても相変わらず混雑して行列の出来ている店も多いような状況。1階では70年代を中心としたロックのジャケット写真(David Bowie、Queen等)で有名なMick Rockが撮った平成中村座NewYork公演の写真展もやっていたが、いつも歌舞伎座で見ている勘三郎の写真を1000円払って見る気持ちにならなかったことと、少々混雑にくたびれ気味だったこともあり、ちょっと迷ったけれどこちらはパスした。

早々に館外に出てみると、檜町公園の緑、特に広い芝生にホッとさせられる。六本木ヒルズや新丸ビルと比べても、この公園部分を擁しているのは、東京ミッドタウンのアドバンテージではないかと思えた。


ギメ東洋美術館所蔵浮世絵名品展 [Art]

ギメ東洋美術館所蔵浮世絵名品展
浮世絵 太田美術館

mamiさんのブログで紹介されていたのを読んでちょっと行ってみたくなり、最終日かつ日曜日というのを承知で表参道へ。記事にあったとおり列ができており係員に20〜30分待ちと言われたが、結局15分ほどで入場できた。

いつもは靴を脱いでスリッパで入るのだが、この日は靴のまま。と言っても、太田美術館所蔵の「虎図(雨中の虎)」と対の双幅であったことが判明した「龍図」とは、やはり靴を脱いで畳敷きのところに上がって観る形に。

その後、写楽の役者絵や北斎の風景画、春信や歌麿の美人画など、状態の良い充実した作品が数多く並んでおり、なかなか贅沢。

広重の「月に雁」は、小学生時代に多少とも切手蒐集少年だった身にとっては「見返り美人」と並んで高額記念切手の代名詞だったが、そのオリジナルを観ることができたのも感慨深い。

やはり見逃さなくて良かったという充実した展示だったが、前期の1月、後期の2月毎に1回ずつ展示替えがあって、展示の目玉となる作品でも見られなかったものも多く、結局図録を買うこととなってしまったのは少々残念。

それにしても、こうして海外流出した江戸時代の美術品を里帰り展として見る度に、江戸から明治への転換と共に失われたものの大きさを意識せざるを得ない。廃仏毀釈で神仏混淆の寺社が必要以上に分離したり仏教美術が失われたりしたことと必ずしも同列には論じられないかもしれないが、江戸時代の民衆芸術がこうして海外で受け継がれていることは、まだ救いがあると考えるべきなのかもしれない。パリへ行く機会があれば、ギメ東洋美術館には是非行ってみたいものだと思う。

美術館を出てからは、表参道を青山方面へ歩く。この界隈は子供の頃から縁がある地域だが、最近は全くご無沙汰で、あの表参道ヒルズもオープン一周年というのに初めてその姿を見たという次第。こんなところで写真を撮っていると、何やら観光客であるかのような複雑な思い。それでも、モニュメント的に少しだけ残された同潤会アパートの姿には、素直に懐かしさを感じたりした。


展覧会二題@日本橋 [Art]

以前から行くつもりだった展覧会が二つ日本橋・三越前で開催されてるので、足を運ぶことにした。まずは三井タワーへ。

三井記念美術館 開館一周年記念特別展
赤と黒の芸術 楽茶碗


今年の8月、京都樂美術館を訪れた時に今回の展覧会のチラシと割引券を入手していたので、ぜひ見てみたいと思っていた。

実は三井記念美術館自体が初めてだったのだが、まずは展示室1で重厚な木を贅沢に用いた内装に圧倒される。ただ、肝心の樂茶碗達もそれに負けない存在感を見せてくれる。

特別出品されている「黒樂茶碗 銘 大黒」も重みを感じさせるが、同じく初代長次郎の「黒樂茶碗 銘 俊寛」は、利休が薩摩の門人に茶碗を三つ送ったらこれ以外が送り返されて来たので、残された茶碗を「俊寛」と名付けたという解説が加えられており、これなども芝居好きには一層興味深い。

以降、代々の代表的な茶碗を中心に90点ほどの展示がある。8月の京都でも感じたが、手捏ねと独自の釉による黒樂、赤樂という一貫性は保っているものの、代々の当主はむしろ先代の作風を受け継がず、時代の影響も受けつつ独自の個性を確立しながら十五代継続している、その歴史に圧倒される思いがした。

続いて、すぐ並びにある日本橋三越本店新館7階ギャラリーへ向かう。
衣裳・小道具で見る歌舞伎展


既にいくつかのブログで紹介された内容を見ていたが、松竹衣裳と藤浪小道具が協力しており、この手の展覧会としては出品点数も多い。まずは「假名手本忠臣蔵」「京鹿子娘道成寺」や三姫の衣裳を表裏とも間近に見ることができ、しかも普段なかなか見られない引き抜きの上半身部分なども展示されている。また、三越衣裳部の手になる松王丸(六代目菊五郎)や意休(七代目幸四郎)の衣裳はガラスケースの中だが、刺繍の豪華さに思わず息を飲む。

次の部屋からは小道具が中心で、馬の骨組みや鯛の作り方、「髪結新三」の鰹や「四谷怪談」の抱き地蔵なども興味深いし、知盛の碇や鎌倉権五郎の太刀、「関の扉」の大まさかりなども、やはり目の前にあると大きさが良くわかる。さらに、鯨の髭や膠などの素材や材料も合わせて展示され、やはり新しい素材ではうまくいかないことも多いといった解説が添えられていた。

最後は、波音用の小豆籠、風音を立てる手車、そして町駕籠(四つ手駕籠)などが展示されており、触ったり写真を撮ったりできるのも楽しかった。

それにしてもこうした展示なら、衣裳類が今回ほどの規模でないにしても、小道具を中心に何とか常設に近い形でできないものだろうか。煙草盆など今や我々の生活の中では身近に見当たらなくなっている道具類が多いこともあり、歌舞伎への関心を喚起するためにも、例えば新しい歌舞伎座の建物内にそうしたコーナーを設けるという手もあるのではないだろうか。


肉筆浮世絵展「江戸の誘惑」 [Art]

ボストン美術館所蔵 肉筆浮世絵展
江戸の誘惑
2006年10月21日(土)〜12月10日(日)
江戸東京博物館 1階企画展示室

以前にNorihimeさんが神戸市立博物館での展覧会を紹介されていた「江戸の誘惑」展だが、東京での開催が始まったことに地下鉄内の広告で気がついた。歌舞伎座昼の部終演後に時間があったので、両国まで足を伸ばし、16時30分頃に入場。入場料は当日料金で大人1300円。

明治時代に日本に滞在したボストンの医師であるウィリアム・S・ビゲローが蒐集した700点以上の肉筆浮世絵コレクションから厳選された68点が展示されている。音声ガイドは噺家の柳家家緑が軽妙な語り口で説明してくれるのも悪くない。

菱川師宣、喜多川歌麿なども複数展示されているが、葛飾北斎の作品が9点も出品されている。入場して早々に「朱鍾馗図幟」が目に飛び込み、さらに色鮮やかな枕屏風である「鳳凰図屏風」や珍しい絵入り袱紗の「唐獅子図」から今回復元された提灯絵「龍虎・龍蛇」まで、昨年秋の「北斎展」でも感じた多彩さに触れられるのも、とても楽しい。

鈴木春信の肉筆画として極めて貴重な作品という「隅田河畔春遊図」はとても良い風情だが、保存状態のためか背景部分が褐色気味なのが少し残念。その他にも、美人画や歌舞伎、遊里などの風俗図なども外れが殆ど無い。その中でも特に勝川春章の「石橋図」や「見立江口の君図」などに惹きつけられながら、気がつけば閉館時間の17時30分となり、急ぎ足で図録やクリアフォルダを買い込んで博物館を後にした。


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