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NODA・MAP「ロープ」 [観劇(その他)]

野田地図 NODA・MAP 第12回公演 「ロープ」
2007年1月17日(水) 19時開演 
Bunkamura シアターコクーン 1階XA列5番

年末年始にかけてチケットを確保しようと動いたが、土日・休日はいずれも入手できず、まあいいかと諦めていた。ところが新年早々に会社の後輩が「仕事の関係でどうしても行けなくなってしまったので、引き取って貰えませんか?」と言ってきた。自分自身もそれなりに仕事は立て込んでいたのだが、席は最前列ということでどうやって確保したかと気の毒にもなり、何よりも渡りに船ということで、喜んでチケットを引き取ることにした。

会社から直行で劇場に到着すると、平日ながらほぼ満員の様子。客層は予想以上に女性の比率が高い。

昨冬に「贋作・罪と罰」再演を観て以来の野田秀樹だが、今回はプロレスをモチーフにした「暴力」、そしてその究極の形である「戦争」の話。他のブログなどの記事で「重いテーマ」という表現をよく見かけるが、むしろテーマとしては普遍的ではないかと思う。チャップリンの「殺人狂時代」と同種の表現も登場し、終盤で登場するベトナム戦争とミライのエピソードなども含め、全体に非常にストレートだ。

終演後、やはり戯曲が読みたくなりロビーで売っていた「新潮」2007年1月号を買い求めたところ、そこに主要参考資料として掲載されていたのが、"A Look back upon Son My"(クァンガイ省一般博物館資料)と、もう一つは以下の書籍。

「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」―ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」

海兵隊に従軍したベトナム帰還兵による子供向けの講演記録とのことだが、ベトナム戦争における虐殺と脱走兵のエピソードはこの書物にベースを置いていると思われる。「『暴力の大義』の嘘」「匿名性の恐ろしさ」「『見せる暴力』から『本物の暴力』への連続性とエスカレーション」といった内容をあまり斜めに構えずにストレートに描いているのも、この書物故ということかもしれない。描き方が分かり易過ぎるという声もあるようだが、宮沢りえや藤原竜也の起用も、集客力を目一杯活用してでも幅広い層にこのテーマをぶつけたいという野田秀樹の意図があるのではないか。

観劇の途中で、我々の世代以上であればベトナム戦争における虐殺の代名詞として一度は耳にした「ソンミ村」といった地名も脳裡に浮かんだが、これとても若い世代には遠い存在なのではないか。この日はたまたま阪神淡路大震災から12年目に当たる日であったわけだが、テーマこそ違うものの「命の尊さ」「災厄の悲惨さ」を語り継ぐことの重要性という意味では通じるところがある、ということも胸をよぎった。

芝居自体のことについて言えば、まず主演の二人のうち宮沢りえは、登場直後はやはり少し声が細いかと心配したものの、中盤以降はマイクを通したリング(戦争)の実況ばかりでなく地の台詞でもしっかりと通る声を出していた。コロポックルと自称しているが実際にはベトナム出身という設定も、彼女の透明感や細くて長い手足と良くマッチしているように思えた。

藤原竜也は、プロレスは八百長でないと信じている(ように振舞う)純情なレスラーのヘラクレス・ノブナガというやや複雑な役どころで、ジャージ姿ではおよそレスラーには見えないが、タイツ姿でリングに上がるとそれらしく見えるのは不思議。芸達者な周囲の俳優に負けない独特のオーラを発していたと思う。

ワキを固める顔ぶれの中では、ノブナガとタッグを組むカメレオン役の橋本じゅんが良い味を出していた。ボケ担当のプロレスラーから戦場の狂気に支配された戦士への変貌が鮮やか。

もちろん、野田秀樹と渡辺えり子の夫婦役というのも、とても贅沢な組み合わせ。小ネタ満載の芝居をアドリブを駆使しながら自在に展開しながらも嫌みはない。

それにしても、芝居の全般を通じて携帯電話で指示を出す黒幕の「ユダヤ人の社長」という表現には、「おいおい、いいのか?」と冷や冷やしながら観ていたが、終盤近くに「でもユダヤ人じゃないことだけは確かね」「え?ユダヤ人じゃないの?」「だって、八百長の元締めが、ほんとのこと言うわけないでしょ。」という形で見事にはぐらかされてしまった。この言葉自体にストレートな象徴性を持たせているというよりは、いかにもそれらしいけれど実は紛い物、ということを現したかったのかもしれない。

最後に印象に残ったのは、やはり終盤でタマシイが語る「私のミライは滅んだ。けれども、あなた達の未来はまだ、天気のいい朝に、四時間で滅んではいないのだから」という台詞で、これには素直に胸に迫るものを感じることができた。


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