SSブログ

十二月大歌舞伎(夜の部) [観劇(伝統芸能)]


十二月大歌舞伎(夜の部)
歌舞伎座
2007年12月8日(土)16時30分開演 1階16列24番

1.菅原伝授手習鑑 寺子屋 一幕
勘九郎時代の平成7年7月中座以来3回目となる勘三郎の松王丸だが、事前に想定していたよりは落ち着いた出来だと感じられた。病身を押しての首実検、源蔵とのやりとり、小太郎を想い桜丸を偲んでの嘆き、といった一つ一つの場面を思いの外丁寧に進めていく。小太郎への情愛をリアルというかやや世話な雰囲気で強めに表現していること、また時として口跡も含め持ち前の愛嬌が邪魔をする形で顔を覗かせることも含めて、吉右衛門とも仁左衛門とも勿論異なる、良くも悪くも勘三郎の独自性の強い松王丸ではあったと思う。自分としては今回も泣かせてもらうことはできたが、それがこの狂言が本来持つ力によるものか、役者の力によるものかは、評価し難いところ。

新之助時代以来の再演となる海老蔵の武部源蔵も、いつものように高い声に抜けるところの台詞回しは気になるし、筆法を伝授された菅家の家来にしては少し若くかつ武張った印象ではあるものの、こちらもまずまず手順を踏んで演じているという印象で、予想していたよりは好感が持てた。女房戸浪は勘太郎が初役で勤める。背の高さと表情の骨格が骨っぽく見えることも含め、味わいを感じさせるには至らないが、丁寧な芝居で好印象。福助の千代は、登場から源蔵との絡みあたりはまずまず神妙な出来だが、後段での泣きの芝居が振幅はともかく長く引っ張ってくどく感じられたのは残念。

2.粟餅 常磐津連中
往来で粟餅の曲捲きや曲投げを行う物売りを描いた江戸末期の風俗を描いたもので、杵造と臼造の二人が洒脱に踊る常磐津舞踊。吉原の様子なども交えつつ六歌仙の踊りまで軽妙かつ賑やかに踊り進む。三津五郎はもちろん橋之助にも大きな破綻はないが、やはり三津五郎の方が足腰のタメなどで一段上と見えるのは、実際に差があるのか、こちらの先入観のためか。

  有吉佐和子 作 戌井市郎 演出
3.ふるあめりかに袖はぬらさじ
昭和47年文学座初演から杉村春子の当たり役であったお園を、昭和63年に玉三郎が受け継いだ形となって以来幾度も上演されてきたが、玉三郎以外の役者も女形まで全て歌舞伎役者によって歌舞伎座にかかるのは今回が初めて。自分としても全くの初見。

その玉三郎は、流石に何度も演じているだけあって、酒好きの気の良い芸者だが亡くなった花魁・亀遊への想いを持ちながら自ら「神話」作りに荷担していく不条理さを無理なく演じており、人物造形にぶれがない。自分としては元々綺麗な役柄以上に世話な役や汚れ役の玉三郎の方に惹かれるところもあり、十分に楽しませてもらうことができた。

他の役者では、まずは亀遊を演じた七之助が、病を得て伏せる中での淡い恋心が残酷にも引き裂かれていく中で自殺に至るまでの幸薄い美しさを見せて、十分な出来。終演後も周囲の御見物から「綺麗だったわね」という声が上がっていた。

相手役となる藤吉を演じるのは獅童だが、実質的に現代劇である中本作ではいつもの歌舞伎味の乏しさは気にならず、ナイーブな青年を滑稽さも絡めて演じてまずまず。

勘三郎の岩亀楼主人は達者の一言で、こういう役では滑稽味も生かしつつ見物を掴む力が十分に生きる。

アメリカ人商人で亀遊を見初めるイルウスは彌十郎が演じるが、柄の大きさが役に合っており、片言の日本語を交えた英語の台詞も駆使して気恥ずかしさも感じさせず、芝居の中の存在として違和感を感じさせない。

唐人口の遊女達は、言わば「伊勢音頭恋寝刃」のお鹿がぞろぞろ出てくるようなものだが、福助、上村吉弥、笑也、松也、新悟、芝のぶという顔ぶれが思いきり不細工な化粧で登場するのが面白い。その中では、やはり福助のマリアが他を圧する怪演と言えるか。

後半の攘夷派の顔ぶれでは、三津五郎が貫禄を、橋之助が訳知りな雰囲気を、そして段治郎と勘太郎が血気に逸る様子を演じてそれぞれ自然で無理がない。


nice!(0)  コメント(1)  トラックバック(1) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 1

mami

ShyBoarさん、こんばんは。TBありがとうございます。
「寺子屋」は勘三郎、海老蔵はまあ想定内の出来でしたが、福助があれでは。松王丸の台詞ではありませんが、「源蔵夫婦への手前」ってものがあるでしょう!と思ってしまいました。

「ふるあめりか~」は実を言うと観る前はあまり期待していなかったのですが、玉三郎が当たり役と言うだけのことはあって、引き込まれました。お姫様よりこういう役の方が、本人もお好きなのかもしれませんね。入れ込み方が違う気がしました。
by mami (2007-12-14 23:01) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。