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八月納涼大歌舞伎(第三部) [観劇(伝統芸能)]

八月納涼大歌舞伎(第三部)
歌舞伎座
2007年8月11日(土)18時開演 1階19列17番

八月歌舞伎座の納涼歌舞伎は、例年どおり初日も遅く期間も短い。来週以降も色々と予定が立て込んでいるので、結局初日からの観劇となった。

通し狂言 裏表先代萩 四幕六場
  序 幕 花水橋の場
  二幕目 大場道益宅の場
  三幕目 足利家御殿の場/同 床下の場
  大 詰 問注所小助対決の場/控所仁木刃傷の場
最初に聞いたときは「伽羅先代萩」のパロディかと思っていたが、筋書を買って見てみると本筋とサイドストーリーを交互に上演される文字通り「裏表」の舞台で、特に「表」は細かい部分はともかく、いつも見ている場面と大きく異なるわけではないようだ。一方で「裏」の方は、いつもは「竹の間の段」で若君の脈を取る女の夫である御典医という形で名前だけ登場する大場道益と下駄屋の下女お竹、そして道益の下男・小助の絡む世話物として展開される。

そういうわけで、べったりと通しをされるよりは目先が変わって良い趣向だとは思う。「花水橋」七之助の頼兼、亀蔵の絹川谷蔵というやや小粒な組合せだが、以外とスムーズな幕開け。ところが、続く世話場の「大場道益宅」が、初日だということを差し引いても少々ぎこちない。小助は勘三郎自身が言うとおりニンには合っていると思うのだが、「表」の悪事に荷担する一方でお竹を無理口説こうとする道益、その悪事に絡む金を狙う小助、身内の難儀から金が必要となったばかりにそこに巻き込まれ濡れ衣を着せられるお竹、という関係と物語の展開が今一つ素直に伝わってこないのは残念。上演日数を重ねればもう少しこなれてくるのかもしれない。

変わって、いよいよ「御殿」となるが、勘三郎の政岡は、本人が「やりたかった」と語っているだけのことはあって、流石に気合いが入っているようだった。「神谷町の義父(芝翫)に一字一句教わった」とも話しているが、母性も忠義もそれなりに感じさせつつ過剰さは見せず、初役らしい丁寧さが感じられたのは良かったと思う。「飯炊き(ままたき)」が付かないのは全体の長さやバランスを考えればやむを得ないところか。栄御前の秀太郎は本来のニンからは少し離れるが、きちんとした芝居で落ち着いた雰囲気を見せる。「床下」では、やはり政岡に精力を使った分だけ仁木本来のオーラはやや薄い気がした。荒獅子男之助は初役の勘太郎で、こちらも線の細さもあり余裕はないのだが、精一杯の熱演には好感が持てた。

「問注所小助対決」は、いつもの仁木ではなく小助が主役でお竹との「対決」になる。詮議役もいつもの山名宗全と細川勝元ではなく、それぞれの部下が当たる形。ここも「道益宅」と同様に初日故のもたつきはあるが、勘三郎の小助と捌き役である倉橋弥十郎を勤める三津五郎の絡みの割合が多い分、芝居の進み具合は少しましな感じ。

「控所仁木刃傷」では、再び「表」の世界に戻るが、評定が渡辺外記左衛門側勝訴となったことは控所での会話で説明されるのみなので、話をわかっている者でないと、その後の展開が唐突に感じられるかもしれない。市蔵の渡辺外記は老け役を律儀に勤めてはいるが、やはりまだ軽いと言うか、役なりの味わいというには少し遠いか。また、手負いになってからの段取りも少々緊張感に欠ける。忠臣としての本懐を遂げた外記と勝元が立場を超え武士としてまた人間として通じ合い、お墨付きを得た外記が最後の力を振り絞って舞を披露し、これを讃える勝元が大きさを見せて幕となる、という形で締め括ってほしいのだが、これがきちんと揃う舞台が案外少ない気がするのは、私だけだろうか。


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コメント 2

mami

ShyBoarさん、こんにちは。
私は楽日も間近い観劇でしたので、さすがにもたつくところはありませんでした。でもやはり有名演目でで初役が多い配役というのは、見る方も芝居自体を楽しむというより、「役者がちゃんとやっているか」に注目してしまうという部分が大きく、なんだか新人公演を観るようで落ち着かないなあ、と思ってしまいました。
特に勘三郎の政岡は、もっと自分のものにした舞台を再見したいと思いました。
by mami (2007-08-28 11:08) 

ShyBoar

mamiさん、こんばんは。コメント&TBありがとうございます。

夏芝居は若手と昔から相場が決まってはいますが、それでもハラハラさせられることなく楽しみたいところではありますね。

勘三郎は、時として初演時の懸命さと再演時の流し方にギャップを感じることはありますが、政岡はそう簡単ではないでしょうから、再演以降には更に立派な姿を見せてくれると期待したいものです。
by ShyBoar (2007-08-29 23:29) 

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