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NINAGAWA十二夜(七月大歌舞伎・初日夜の部) [観劇(伝統芸能)]

七月大歌舞伎 NINAGAWA十二夜
歌舞伎座
2007年7月7日(土)16時30分開演 1階16列24番

ちょうど2年振りの再演。待望とまでは言わないが、結構楽しみにしていたのは確か。ロビーで出会った音羽屋贔屓の知人にも「初日からですか」と言われたが、博多座で1ヶ月やってからなのでその知人が言ったとおり中日みたいなものだし、菊五郎劇団+蜷川演出なので三日御定法ということもなかろうと思って足を運んだが、実際のところ初日故の不安定感は全く感じなかった。

定式幕が引かれると舞台全面の鏡に客席が映っており、その後も鏡やハーフミラーを上手に使った舞台美術は前回同様。初演時の驚きは無いものの、やはり素直に美しいと思う。

前回との違いとしては、まず主な配役の中で右大弁だけ松緑から翫雀に変わっていること。それ以外は、菊五郎や菊之助のインタビュー記事で触れられている内容がそのまま素直に感じられた。

まず、黒御簾音楽が前回より相当きめ細かくなったり竹本の入る場面が増えるなど、音楽の充実が印象的。ちなみに前回同様のチェンバロには賛否両論あるだろうが、翻訳劇として片足をシェイクスピアに残す以上は、これはこれで良いのではないか。

前回との大きな変化のもう一点は、各々の役者の役柄の把握が進んだという感じもあり、また台詞まわしがかなりこなれてきて、歌舞伎として観ていても違和感が少なくなっていること。台詞自体、相変わらずシェイクスピアの言葉遊び的部分も多い一方で、歌舞伎らしい言い回しへの書き換えも少なくないように感じられた。また、ふり落としの幕が前回より多用されていたと思うが、そうした演出面でも歌舞伎味の濃い箇所が増えていたように思う。

役者毎に見ると、まずはこの企画の発案者であり再演の提案者でもある菊之助だが、小姓に身をやつした琵琶姫が時として女に戻る時、それぞれの演技の切り替えが前回より自然で、かつくっきりしている。初演時のやや戸惑ったようなぼやっとした雰囲気にも良さはあったが、喜劇としてはは分かり易いし、あざといというところまでは行っていない。

菊五郎も、坊太夫は間の抜けた雰囲気と後半の弾けっぷりが楽しく、特に偽手紙で舞い上がったところからは秀逸。もう一役の捨助についても、手探りで演じているような違和感がぐっと減っていると感じた。

「風林火山」から抜け出てきて久々の女形姿を見せる亀治郎の麻阿は、智略を以て坊太夫にきつい悪戯をしかける役を、昨年のPARCO歌舞伎の雰囲気も少し持ち込んだような弾けた芝居で自在に演じ、恐らく最も笑いを取っていたと思うが、何よりも本人が楽しそうだった。

初演時は信二郎だった大篠左大臣の錦之助は、前回も貴公子風の雰囲気が良く出ていたが、今回は左大臣という設定に相応しい大きさ、大らかさが加わり、前回以上に無理のない演技になっていた。

右大弁安藤英竹だが、初演時の松緑は酒にだらしなく頭も勇気も弱いぼんぼんという造形で、ギリギリの弾け方に新鮮な面白さがあった。今回の翫雀は本人曰く「西洋かぶれの自己顕示欲の強い花形満」ということで、前回よりおっとりした公家阿呆の雰囲気が強い一方で、細かい入れ事を始めると新喜劇のようでもあり、これはこれで笑わせてもらえた。

左團次の洞院は周囲の役者が大車輪の中で飄々と受ける芝居で、大受けは取らないが無理や戸惑いを感じさせない。その他、段四郎、権十郎、秀調、松也、亀三郎なども、いずれも前回より自然に芝居に溶け込んでいる感じ。

そんな中で、織笛姫の時蔵は、前回同様に綺麗な姫君で存在感も十分。ただ、演出からの注文が唯一「赤姫で」ということだったそうだが、主役級の中では一番手探り感が残っているようにも感じた。義太夫狂言の赤姫らしい情熱を表現するには、例えばもう少し竹本を効果的に使うといったことが必要なのかもしれない。

他に、菊之助二役の主膳之助と琵琶姫が同時に登場する大詰で、マスクを着けた吹き替えを使うのは前回も気になった箇所。今回も同様なのはやむを得ないことなのだろうが、他の場面では歌舞伎ならではの早替わりなどを活用しているので、ここも吹き替えの顔を正面に向けないようにして声は本人が出す、というような歌舞伎らしい演出を工夫できないのか、とも感じた。

幕切れは大団円の中、旅に出る捨助が花道を引っ込むところで幕となる。今回はカーテンコールが無かったのも、歌舞伎らしくて一安心。


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コメント 6

るるる

マスクに引いてしまう部分はありましたよね。
マスクをされていてもいいから、構図的に斜めになるとか背中を見せるとか、やりかたはいくらでもあると思います。ああも堂々と正面きって向かい合われてしまうと・・・という気もしてしまいます。
夢は壊さないでいただけたらよかったかな。
by るるる (2007-07-13 01:29) 

ShyBoar

るるるさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
そうですね。私も「マスクでやるしか仕方がない」という感じで少し開き直っている感じすらしました。初演でも観ているので「ああ、今回もやっぱりこれか」と思いましたが、初めて観た人の方が違和感が強いかも。確かに、もっとやり方は色々ありますよね。
by ShyBoar (2007-07-14 01:03) 

Ren

こんにちは。2週連続で歌舞伎座に通いました^^
初演の時に比べてずいぶん「歌舞伎」に歩みよった感じが強くしました。
もちろん演じる役者さんがみなさん歌舞伎役者さんですし
歌舞伎座の歌舞伎公演なんで、当然といえば当然ですが。。。
チェンバロもややこしい台詞も、シャイクスピアっぽくて私は好きです。
by Ren (2007-07-22 22:22) 

ShyBoar

Renさん、nice!&コメントありがとうございます。
確かに歌舞伎らしい雰囲気が随所に増えましたよね。歩み寄ったというか、菊五郎劇団のやりやすい側に徐々に引っ張り込んできた、という感じもしましたが、それでも成り立ってしまうところが素晴らしいと言うか、嬉しい気持ちになりました。
by ShyBoar (2007-07-22 23:47) 

mami

ShyBoarさん、こんばんは。
再演ということで、役者さんも演出も前回よりずっとこなれた感じで、安心して観ていられました。
美術や音楽も斬新なのに、違和感なく歌舞伎になっていて面白かったですね。
菊之助の奮闘もさることながら、やはり菊五郎の存在感は大したものだと改めて感心しました。
時蔵も私はあえて「正統派赤姫」に踏み止まったように感じました。
でもやっぱりいちばん面白かったのは亀ちゃんですが。
by mami (2007-07-26 00:29) 

ShyBoar

mamiさん、こんばんは。コメント&TBありがとうございます。
仰るとおりで、役者達がそれぞれに役をこなして身につけてきた中でも、特に難しい二役の菊五郎の余裕は際立っていたように思います。
亀ちゃんも、本当に楽しそうに弾けていて、なおかつ観客から見ても無理を感じず素直に笑えるというのは、凄いことかもしれませんね。
by ShyBoar (2007-07-26 00:47) 

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