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吉例顔見世大歌舞伎(昼の部) [観劇(伝統芸能)]

吉例顔見世大歌舞伎(昼の部)
歌舞伎座
2007年11月4日(日)11時開演 1階16列6番

1.種蒔三番叟 長唄連中 清元連中
三番叟にも様々なものがあるが、これは清元舞踊ということで元々の土俗的空気は殆ど無く、非常におっとりとした踊りが展開される。松葉目でなく背景を松竹梅の装置にした工夫もまずまず。梅玉の三番叟、孝太郎の千歳ともにその雰囲気に相応しく品良く踊り進み、顔見世の幕開きらしい一幕。

  近松門左衛門 作
2.傾城反魂香 土佐将監閑居の場 一幕
先月の三越歌舞伎は観ていないので昨年5月歌舞伎座の三津五郎以来。それ以前も何度も観ている演目だが、今回はそれらと比較しても一二を争う良い出来で、良い芝居を見せて貰ったと素直に感じることが出来た。

吉右衛門の又平は、まず花道の出から、愚直で人は悪くないが世に認められない哀愁といったものを漂わせており、この時点で既に観ていて切なくなってしまう。その後も、絵の腕が評価されていない中で何とか役に立ちたいと焦る場面では、更に胸が詰まってくる。生まれついての障害を嘆き、演技でも吃音を表現はしているが、むしろそれは本質的な問題ではないことが吉右衛門の芝居から浮かび上がってくるようだ。力が足りないことは自分自身でわかっていて、それでも何とかして土佐の名字を得ればそれを拠り所に生きていける、そんなやり切れなさをしっかりと見せてくれる。ここまでの芝居で泣かされたことは、これまであまり記憶がない。だからこそ、絵が抜けて名字を許されて以降、衣服を改め大頭の舞を舞う姿を、心から微笑ましく嬉しく眺めることができたように思う。

周囲を固める役者も一貫して質の高い芝居を見せてくれる。雀右衛門の持ち役だったおとくを受け継いだ芝雀は持ち前の柔らかみも生かして、単にしゃべりなだけでなく心から又平を慕い支える想いが感じられて十分な出来。

土佐将監が初役の歌六は、高位の絵師らしい格と勅勘を受けている影、更に又平への情愛も滲ませて過不足無い。又平夫婦への心遣いという意味では、吉之丞の将監北の方が更に素晴らしい出来で、芝居全体の自然な空気を作ることに大きく貢献していたように思う。

錦之助の修理之助は、前髪の柔らかみ凛々しさに加え、使者として向かう行く手を遮る又平とのやりとりも素っ気なくならず兄弟子への想いを見せ、この役としては水準以上の存在感で、これも嬉しい限り。歌昇の雅楽之助は既に五回目とのことで手に入っており、糸に乗った動きも芝居の中で良いアクセントになっていた。

昼食は久しぶりに地下の「そば食堂」へ行き「鴨せいろ」をいただく。



  福地桜痴 作
3.新歌舞伎十八番の内 素襖落 竹本連中 長唄囃子連中
狂言を元にした松羽目物としては比較的長尺のもので、物語の設定で笑いを誘うというよりは、比較的淡々とした展開の最後で酔態の太郎冠者を大名がからかうという、どちらかと言えばほのぼのした演目。

幸四郎の太郎冠者というのはあまり見慣れない気がするのだが、既に四回目とのこと。役本来の少しおっとりと間の抜けた軽みという意味ではニンでない気がするものの、舞踊としては回数を重ねているだけに破綻無く踊り進んで締め括る。左團次の大名も手慣れた雰囲気。魁春の姫御寮は品は良いのだが、もう少し可愛らしさを素直に出しても良いか。

  河竹黙阿弥 作
4.曽我綉侠御所染 御所五郎蔵 二幕
孝夫時代から既に何度も上演を重ねている仁左衛門の五郎蔵は、姿も台詞廻しも極めて気持ち良く、安心して観ていられる。土右衛門は左團次で、五郎蔵が菊五郎の時も勤めているだけに、一層持ち役としてのイメージは強く、手堅い出来。もっとも、これを富十郎あたりが受け持つとさらにスケールが大きくなるかもしれない、などと考えてみたくはなる。

皐月は、これまで観た中では時蔵の印象が残っているが、今回は二回目となる福助。愛想づかしの場面からの登場という設定故の難しさはあるのだろうが、命のかかった金を巡る切迫感のある状況の中で、想いの伝わらぬもどかしさ、やり切れなさといったものを、もう少し感じさせて欲しかったようにも思う。孝太郎の奥州は、菊五郎相手も含めて回を重ねており、力みの無い落ち着いた芝居でまずまず。


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コメント 2

mami

ShyBoarさん、こんばんは。
吉右衛門の又平はさすがに立派な出来でしたね。芝雀とのコンビも良くて、やはり今月いちばんの舞台でした。
来月の国立劇場も楽しみです。

御所五郎蔵は、仁左衛門が「綺麗、かっこいい!」で終わってしまった感がなくもなく、期待度に比べるといささか不満が残りました。

年の瀬、お忙しいかと思いますが、ご自愛下さい。
by mami (2007-11-26 23:27) 

ShyBoar

mamiさん、こんばんは。千秋楽にご覧になったとは、うらやましいですね。
吉右衛門の又平は本当に良かったですね。周りも揃っていて、少しあざとく感じることすらあるこの演目には珍しく、素直に泣かされてしまいました。
その他の演目は、まあ顔見世興行ということで良しとする、ということかもしれませんね。

お気遣いありがとうございます。今年はインフルエンザの流行も早いようですし、お互いに体調には気をつけて年末を乗り切りましょう。
by ShyBoar (2007-11-27 01:08) 

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