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七月大歌舞伎(大阪松竹座) [観劇(伝統芸能)]

中村鴈治郎改め坂田藤十郎襲名披露 七月大歌舞伎
大坂松竹座
2006年7月16日(日)

昨年末の顔見世の時にも書いた通り藤十郎襲名に思い入れがある訳ではないが、やはり7月は大阪松竹座にとっても大きな本公演なので、今年も観に来ることにした。

【昼の部】 11:00開演 3階2列18番

  近松門左衛門 作
1.信州川中島 輝虎配膳   一幕

けっして派手さの無い演目ではあるが、4年半前にほぼ同じ顔ぶれで演じられていることもあってか、手堅く見せてくれた。特に主役と言ってよい勘助母越路を竹三郎が演じたのはこの座組ならではと言えるが、堂々とした芝居。同じく既に4回目の我當、秀太郎も地味ながら十分、孝太郎もまずまず。ただ、やはり2回目のはずの進之介だけが、相変わらず口跡も芯が無く、長袴の捌きも危なっかしいのが興を削いでいた。

   河竹黙阿弥 作
2.連獅子  長唄囃子連中

壱太郎の子獅子は、昨年の比叡山歌舞伎で仁左衛門と共演した時にも目を惹いた。改めて今回見たところ、少しひょろっとした体型が気になるものの腰は落ちており、なかなかしっかりしたもの。本興行では初めてという翫雀の親獅子も、まずまず落ち着いた踊りを見せる。最後の毛振りでは一見すると子獅子の派手な動きが目立つが、実は親獅子の毛の流れの滑らかさが印象に残った。
間狂言が通常の宗論ではなく、修験者と村娘のやりとりというのが珍しい。愛之助が滑稽な修験者をよく演じていた。ただ、宗論には正直なところ少し食傷気味ではあったものの、こうして見るといつもの方がやはり楽しめるという気がした。

3.坂田藤十郎襲名披露 口上  一幕

朝倉摂美術の舞台もかなり見慣れてきた。雀右衛門は今月この口上だけだが、元気そうな姿に一安心。上方成駒屋、松嶋屋一門に菊五郎、段四郎、時蔵で総勢10名の口上だが、もう少し人数が欲しい気もした。口上の中身は、菊五郎が「共通点は、二人とも奥様が怖い」と言っていた(当日は参議院議長もご来場されていた)くらいで、他は特に目新しいものは無かった。本人の挨拶、雀右衛門の締めともに、良い意味でゆったりした雰囲気。

   並木千柳 三好松洛 竹田小出雲 作
4.夏祭浪花鑑  三幕

上方歌舞伎を中心にかなり幅広い役をこなしている藤十郎にして、この団七九郎兵衛が初役というのは意外だったが、それを襲名披露狂言に持ってくるあたりが意欲的と言える。二世實川延若のやり方を受け継ぐという意気も、上方歌舞伎の多様性確保のための取り組みとして好ましい。

除幕の住吉鳥居前では、通常の夏ではなく原作どおり春の設定とし、衣装も通常の浴衣姿ではない。それも含めて、ややもっちゃりした雰囲気。対する仁左衛門の一寸徳兵衛はすっきりとしているが位負けしないのはさすが。我當の三婦も素朴な味わいで、初役とは思えず。台詞で「道頓堀の竹本座で曾根崎心中が・・・」というのも、普段は聞けない気がした。時蔵のお梶も場の雰囲気にきちんと収まっていた。

続く釣船三婦内は、なんと言っても菊五郎のお辰が素晴らしい。これも初役とは信じがたいが、さすがの実力。5月演舞場の福助が消化不良だっただけに、胸をポンと叩いて「ここでござんす」という見せ場では、文字通り胸のすく想いがして嬉しくなった。幕切れでの団七が飛び出していく場面は、通常の家内ではなく半回しして御神酒を供えた前の縁台でおつぎとのやりとりになるが、これも珍しい。

大詰の長町裏では、段四郎の義平次が薄っぺらさとねちっこさをまずまずのバランスで見せる。藤十郎も、濃厚な雰囲気を醸し出して十分な熱演。ただ、これも5月に書いたとおり、中村屋のやり方に見慣れたためもあるのか、圧倒的とまでは言えない気がしたのは少し残念。それでも、大坂の芝居小屋に響くだんじり囃子は地元ならではの気分を盛り上げてくれたし、幕切れに花道を引っ込むところでは勢いを感じさせてくれた。

【夜の部】 16:30開演 3階2列15番

1.一條大蔵譚   二幕

松嶋屋一門でほぼ固めた舞台だが、いずれも非常に良い出来。
まず何よりも仁左衛門の大蔵卿。公家らしい柔らかい気品があって、なおかつ愛すべき雰囲気の阿呆ぶりは、この人ならでは。特に一幕目の檜垣で、全くあざとさを感じさせない。
吉岡鬼次郎は愛之助が初役で勤めるが、すっきりした姿に落ち着いた線の太さも見せて、これも初役とは思えない出来。孝太郎のお京も手堅い。常磐御前の秀太郎も、当然ながらしっかりした芝居を見せるが、もう少しだけ武家風に品の良い側に振ってくれても良かったかも。今月の顔ぶれで言えば、雀右衛門がつきあってくれればというのは、望み過ぎかもしれないが。他には、敵役である勘解由の團蔵、女房成瀬の家橘とも、きちんと収まっていた。

2.京鹿子娘道成寺  竹本連中 長唄囃子連中

番付(筋書)のインタビューで「違った色をと考え、道行では京鹿の子の衣裳で」と書いてあったが、藤色の地に桜があしらわれており鹿の子柄(絞り?)かどうかは3階席からはよくわからなかった。

翫雀、壱太郎以下の所化は上方歌舞伎塾出身者を含む若手も多数並んでいて、舞いづくしもこの日はりき弥が勤めていた。問答の後に花子が寺入りしてから所化に促される形で、口上が入る。

その後は、やはり濃い目の色気を持ちながら過剰にはならず、娘の雰囲気を感じさせる。中堅でも顎を出す人が少なくない大曲なので、さすがに前のめりにすいすい踊り進むとまではいかないものの、苦しさは殆ど見せない。「恋の手習い」などは、かなりじっくりと踊り込む。圧巻なのは鐘入りで極った表情。蛇体の妖しさと娘の美しさを発散しながら幕となった。

   河竹黙阿弥 作
3.新皿屋舖月雨暈 魚屋宗五郎  二幕

夜の部の最後だからなのか、藤十郎だけがお目当てだからなのかはわからないが、これを見ずに帰ってしまった客が3階席でもちらほら見られたが、なんとももったいない限り。これぞ菊五郎劇団という舞台を大阪で見ていることに複雑な想いがないわけではないものの、昨年1月歌舞伎座で見た高麗屋の不思議な宗五郎と比べるまでもなく、極めつけの芝居だった。

まずは菊五郎の宗五郎が、今回は以前に見た時以上に酔っていきながら気持ちが昂っていく様が、自然でかつ実があって絶品。時蔵のおはまも菊五郎とのコンビは初めてだが、世話女房ながらくどくならず良い味を出している。鶴蔵や亡き松助のイメージが強い父太兵衛は今回は團蔵に役が回ってきた。もう一つ落ち着きが欲しい気はしたが決して浮いてはおらず、まずまず。孝太郎のおなぎも矢絣の腰元姿がよく似合い、宗五郎とのからみも無理が無い。

磯部屋敷でも、段四郎の家老浦戸が地道な捌き役を好演し、庭先の場へと進む。ここで特筆すべきは、翫雀の主計之助。化粧の工夫もあるのかすっきりと柔らかい若殿姿だが、何よりも宗五郎に対して若気の過ちを詫びる場面が非常に心のここもった風情。ともすれば身分制を前提としたご都合主義的な後味の悪さを感じかねない幕切れを、暖かく締め括ってくれた。

こうして昼夜観てみたが、最近の歌舞伎座で新作や新歌舞伎を多く見せられていることもあって、義太夫狂言、長唄舞踊、松羽目舞踊、生世話物という今回の演目立てには、何やらほっとする感じもした。


終演後は、観劇仲間と千日前の「和食厨房 聡」へ。


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コメント 4

ShyBoarさん、こんばんは!

TBありがとうございます。藤十郎の襲名に思い入れが
ないのは同じですが、南座、歌舞伎座、博多座、松竹座
とつきあってしまったので、10月の御園座にも行ってしま
いそうです。こちらからもTBさせてください。
by (2006-07-24 01:02) 

愛染かつら

やはり観て来られたのですねー。
とても観たい演目がズララッと並んでいるので私も観たかったです~。

特に藤十郎丈が初役で演られた「夏祭浪花鑑」はぜひとも観たかった…
レポを拝読して余計に残念です。
いつか東京でもやって欲しいです~。
by 愛染かつら (2006-07-24 17:01) 

ShyBoar

ハンナさん、TB&コメントありがとうございます。
私は博多座には行けませんでしたが、10月御園座は上方のやり方での「盛綱陣屋」、菊五郎劇団の「髪結新三」などもあって、少し気になるところですね。
by ShyBoar (2006-07-25 01:00) 

ShyBoar

愛染かつらさん、nice!、コメント&TBありがとうございます。
関西ツアーで昼夜観て正解でした。演目という点でも、最近の歌舞伎座を上回る充実した公演だったと思います。「夏祭」も「大蔵卿」も、ぜひ東京でもやってもらいたいですね。
by ShyBoar (2006-07-25 01:03) 

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