SSブログ

七月大歌舞伎(夜の部) [観劇(伝統芸能)]

七月大歌舞伎(夜の部)
歌舞伎座
2006年7月8日(月)16時30分開演 1階16列7番

今月の歌舞伎座は、玉三郎による”泉鏡花シリーズ”。「山吹」意外の三作品は最近も含めてかなり上演されているが、これまで縁がなくいずれも初見。

   泉鏡花 作
   坂東玉三郎 監修  石川耕士 演出
1.山吹  一幕

今回上演される中では、少し色合いの異なる作品。大正時代の同時代性を色濃く感じさせる。ただ、やはり現実世界と異界との境界を描いているという点では共通している。

昼夜とも玉三郎以外が主演する演目は、これまで見たことのある観客は当然のことながら比較するのだろうが、初見であってもやはり「玉三郎なら」ということを想像しながら観てしまう。ただ、そうした見方を前提としても、今回の笑三郎はとりあえず存在感を示していたと思う。むしろ玉三郎とは味わいの異なる膨らみのようなものを見せて、それによって現実世界に足場を置いた雰囲気は感じられた。

これに対する人形使い・藤次は、これまでの上演では最近亡くなった個性派俳優の天本英世が演じてきた。今回の歌六は、役者としてのキャラクターが全く異なりむしろ線の太さを表に出しながら、若かりし頃の罪障の償いとして折檻を望む姿にリアリティを持たせようと奮闘していたと思う。

ただ、いずれもこの戯曲が想定しているであろう濃密さや、倒錯したエロティシズムの果てにある異界というものを感じるには、観る者の想像力に頼らざるを得ない部分が多かったというのが実感で、やはり観客を圧倒するような舞台だったとまでは言えないと思う。同様に「先生」役の段治郎も、縫子のかつての想い人でありながら現実世界に止まってしまうという姿を際立たせることなく、単に二つの世界の間に立つ記号的な存在にしか感じられなかった。結果として、モチーフとなっている大師信仰の「南無大師遍昭金剛」という声が一番印象に残る舞台だった。

今月は昼夜とも二演目ずつで幕間は45分と長いので、食事は外に出てみた。と言っても、とりあえずはお馴染みの「宮城野」で、なめこそば。これで1,000円は、やっぱりいつもの「歌舞伎そば」より少しお値打ち感がある。


   泉鏡花 作
   坂東玉三郎 演出  戌井市郎 演出
2.天守物語  一幕

今回の4作品の中で最も上演機会が多く、かつ玉三郎以前にも大成駒が演じており、歌舞伎座でかかることに最も違和感が少ないし、芝居としての完成度は感じられる。それだけに、この芝居を観た経験の有無によって、今回の舞台の印象にもかなり差が出るのではないかと思う。

主役の富姫と絡む亀姫を演じる春猿は、最近の舞台では残念ながらかつての輝きをあまり感じないことが多く、今回も配役発表時から不安を感じていたのが正直なところ。で、今回実際に観た限りでは、懸念していたほどのことはなかったとは思う。ただ、初演時には初代水谷八重子が勤めた役だということを考え、また最近では宮沢りえや菊之助が演じたことを改めて思い起こしてしまうと、物足りないと思ってしまうのはやむを得ないことかもしれない。

一方、図書之助を演じる海老蔵は、玉三郎が筋書の中で「図書之助や公子にぴったりの海老蔵さんがいてくれるしね」と言ってくれているのだが、やはり最近の舞台でずっと感じている台詞回しの上っ調子さは、いつもよりマシとは言え気になってしまう。やはり黙っているときのすっきりとした姿形ばかりが印象に残ることになる。

玉三郎は、今回歌舞伎座の昼夜を担う責任感からか、自分が突っ走ってついて来れる奴だけついて来ればよい、という感じは少ない。また、見たままの美しさという点での限界が近づきつつあるという意識からか、より落ち着いた雰囲気も感じるがのだが、逆に言えば突き抜けるような勢いがあったとは言いがたい。

また、観客の方も緊張感にやや欠けるというか、微笑ましい場面ばかりでなく、現実からは離れた幻想的な場面での言葉のやりとりに対して中途半端な笑い声が上がったのは興醒めだった。初日夜の部、またこの日の昼の部にもあったカーテンコールがなかったのは、そうしたことも影響していたかもしれない。

そうした面からも、どうせなら7年前、10年前の舞台を観ておけば、という気にさせられてしまった。

終演後は、休憩時間にロビーでばったり出会ったいつもの観劇仲間と飲みに。まず「三州屋銀座店」に行ったが22時閉店で早々に追い出されてしまったので、かねてから行ってみたかった築地の「やまだや」へ。入店時にファースト&ラストオーダーという状態だったが、「あわびの肝煮」などの一品ものも美味しく、徳島の「高柿木」、島根の「山三正宗」など珍しい良酒にも出会えたのは嬉しかった。料理やお酒を説明してくれたご主人もすごく良い感じで、最後に「豆腐めし」で締めくくり、日が変わる前に店を出た。


nice!(1)  コメント(5)  トラックバック(2) 
共通テーマ:演劇

nice! 1

コメント 5

Ren

歌舞伎には珍しくカーテンコールがあるのでは、と期待していたのですが
13日夜もありませんでした。観客のノリもそれほどでもなかったのかも。。。
海老蔵さんの図書之助は、本当に見た目がすずやかですね!
玉三郎さんと並ぶ姿はまさに目福という感じでした。
by Ren (2006-07-16 22:51) 

Ren

ごめんなさい。エラーになってトラックバックが2つ付いてしまいました。
お手数をおかけしますが1つ削除していただけますでしょうか。すみません。
by Ren (2006-07-16 23:08) 

ShyBoar

Renさん、nice!、コメント&TBありがとうございました。こちらからもTBさせていただきました。
主役の二人以外では、幕開きで秋草を釣る腰元達の姿が面白かったです。また、薄の上村吉弥もさすがにしっかりしたものだと思いました。
by ShyBoar (2006-07-18 01:36) 

mami

「天守物語」は、幻想的で美しい舞台を堪能することができました。
私も今回が初見でしたので、玉三郎がもっと若いときはもっと美しかったんだろうとは思うものの、今だから出せる風格もあるだろうし、ともかく生で観られて良かったと思います。
by mami (2006-07-26 00:13) 

ShyBoar

mamiさん、こちらもコメント&TBありがとうございます。
今回観ておいてよかったと思うか、前にも観ておけばよかったと思うか、難しいところですが。
私はやっぱり、海老蔵のセリフをもっとビシビシ鍛えた上で、亀姫は他の人(やっぱり菊之助かなぁ)で観てみたいです。
by ShyBoar (2006-07-27 21:44) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 2

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。