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三月大歌舞伎(昼の部) [観劇(伝統芸能)]


三月大歌舞伎(昼の部)
歌舞伎座
2006年3月5日(日)11時00分開演 1階16列6番

仕事柄、三月は一年で一番忙しい時期だが、観劇予定はかなり詰まっている。まず今日は無事に劇場へ足を運ぶことができた。
座席は鳥屋のすぐ横。揚幕の開く前の緊張感が伝わってくるし、花道へ出てくる役者の足音もとても近い。また、引っ込みの時には座席にいてもスポットライトを浴びる形になるなど、本舞台のかぶりつきや花道スッポン際などとはまた違った臨場感がある。

1.「吉例寿曽我」 一幕
 鶴ヶ岡石段の場
 大磯曲輪外の場

「曽我物」というと「対面」のイメージが強いが、「石段の場」は本来の発端の場の面影を残す形とのことで、自分としては初見。
まず幕が開くと浅葱幕が降りており、花道から出てきた奴二人(亀三郎、亀寿)が幕前で密書を取り合う。二人ともさわやかな落ち着きがあり、まずまず。二人が上手に引っ込み幕が切って落とされると舞台には大きな石段があり、花道から近江小藤太(進之介)、上手から八幡三郎(愛之助)が登場。花道を歩く進之介はやはり足腰に落ち着きが足りない気がするが、本舞台でのやりとりはいつもよりはしっかり。愛之助は、もとより安心して見ていられる。密書を巡る二人のやりとりから石段に上がっての立ち回りになり、極まったところで石段が「がんどう返し」となる。
装置が返った後は富士山の書き割りで「大磯曲輪外の場」となる。大薩摩が山台に乗って登場し、終わって山台が引っ込むと「対面」でお馴染みの顔ぶれがせり上がる。工藤(我當)はそれなりの大きさがあり、大磯の虎(芝雀)は柔らかさがある。五郎(翫雀)は本人曰く「雨の五郎」風とのことだが、下膨れの顔が気になる。十郎(信二郎)は風情は良いが、もう少し存在感が欲しい。他には、喜瀬川亀鶴(上村吉弥)のすっきりした美しさが目を引く。全員がだんまりで動き、最後にもう一度極まって幕となるなど、全体に古風な素朴さを感じる舞台だった。

2.義経千本桜「吉野山」 竹本連中 長唄囃子連中

季節を問わず上演されることも多い「千本桜」だが、特にこの「吉野山」はやはり三月か四月の興行が似合う。
幸四郎の忠信は「夢の仲蔵千本桜」以来かと思っていたら、あの時は染五郎だった。
まず、静御前が花道から本舞台に出てから、狐忠信がスッポンからせり上がる。その後は女雛男雛の見立てや戦物語などへと進む。静御前は現役で印象が強いのはやはり雀右衛門だが、今回の福助も義経を慕う色気がほんのりと感じられるのには好感が持てた。東蔵の逸見藤太も、過不足無し。
一方で狐忠信だが、一貫して難しい顔をして「可愛くない」のには、本当に困ってしまう。清元が「恋と忠義はいづれが重い〜」という序奏で始まるように、あくまでも主君の愛妾である静御前とは主従なのだが、それでも旅を供にする静御前に対する淡い思慕と、更に親鼓への追慕とを胸に抱く健気な狐、というのが性根ではないかと思うのだが、別の解釈での演技ということなのだろうか。幕切れでも鳥屋からの鼓に合わせ七三で狐の所作はするが、引っ込みはいつもの狐六方ではないというのも、どういう意図なのかわからなかった。 

昼食は先月に引き続き「白魚のてんぷら蕎麦」。そば食堂の入り口にも西側売店にも桜が目につく。



3.菅原伝授手習鑑「道明寺」 一幕
 十三世片岡仁左衛門十三回忌追善狂言

十三代目仁左衛門の十三回忌と言われると、もうそんなに経つのかという思いになる。自分としては、本格的に歌舞伎を見始めた頃に何とか間に合ったので、それほど多くの舞台に接したわけではないが、その姿は強く印象に残っている。
「道明寺」自体は、平成7年3月、平成14年2月とも残念ながら見逃しているので、実は初見。まず「杖折檻」だが、孝太郎の苅屋姫は菅丞相配流の原因を作った後悔の念が見え難いので、折檻する覚寿の苦しさと、妹を庇う立田の前の気持ちが浮かび上がらないのは少し残念。「東天紅」以降は、三日御定法とは言え台詞の入っていない年配の役者が多く落ち着きを少々損なうところがあったが、芝翫の覚寿が舞台を引き締めていたのは流石。
そして仁左衛門は、そうした中でも悠揚とした姿で木像の丞相と生身の丞相を演じ分け、「丞相名残」での苅屋姫との別れも十分に涙を誘うものであったと思う。
他には、歌六が奴宅内という滑稽役で付き合っているのは、追善ならではということなのだろう。
本来、家族の別れの苦しさ、敵役の計略に絡むサスペンス、そして後世に「天神」となる菅丞相のエピソードと盛り沢山の物語で、配役もそれなりに厚いので、叶うことなら舞台全体にまとまりの出てくるであろう月後半にもう一度見てみたいものだ。


終演後に友人達とお茶を飲んで話をしていたら、丁度3年前の3月に河内の道明寺に行って梅を見たことを思い出したので、当時の写真を引っ張り出してみた。(こういうことがすぐに出来るのが、デジタルデータの良いところ。)


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コメント 6

源九郎

こんばんは。遅ればせながら、昼の部を観てきました。
大松島が亡くなってから、もうそんなになるのですね。
襲名披露で口上があるたびに、懐かしく思い出します。

狐とその連れは、鼓の扱いがぞんざいでした。今日だけかな。
by 源九郎 (2006-03-13 00:11) 

ShyBoar

コメント&TBありがとうございます。
十三回忌とは、本当に時の経つのは速いですね。

狐のことは、これ以上あまり何か言う気にもなりませんけど・・・。
「こんな表情の暗い狐はあまり見たことがない」と思いましたが、
確かに「生気が無い」という表現の方が当たっているかもしれません。
by ShyBoar (2006-03-15 00:28) 

Ren

こんばんは!TBさせていただきました☆
吉例寿曽我の「がんどう返し」にびっくりしました!
見得を切ったポーズのまま踏ん張る愛之助さんと進之介さん
がんばってましたが最後はちょっとよろめいていたような。。です。
by Ren (2006-03-21 20:57) 

ShyBoar

Renさん、コメントありがとうございます。こちらからもTBさせていただきました。
私が観たときは、がんどう返しでふらついていたのは進クンの方でした。
by ShyBoar (2006-03-21 22:04) 

mami

ShyBoarさん、こんばんは。
コメント&TBありがとうございました。こちらからもTBさせていただきました。
幸四郎の狐忠信は確かに「可愛くな」かったですねえ(笑)。
ひょっとするとあれで人間じゃないというのを表したかったのかしら、と思ったりもしますが、よくわかりません。

道明寺には行ったことがありません。近辺では今も鶏を飼わないというのは本当でしょうか。
by mami (2006-03-21 23:32) 

ShyBoar

mamiさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに「人間ではなく狐」というところを見せる必要はあるのでしょうけど、その妖しさが何か違うような・・・。仁木弾正はハマっていたと思うのですが。
鶏の伝説が今でも生きているかどうかは、残念ながら知りません。でも、道明寺の梅園は綺麗でしたよ。
by ShyBoar (2006-03-22 07:30) 

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